教員自身の「好き」「得意」を再発見 生徒の学びとキャリア支援に活かすヒント
多忙な日常の中で見落としがちな自身の「リソース」
日々の授業準備、生徒指導、部活動、校務分掌と、中学校の先生方は常に多忙な状況に置かれています。そんな中で、授業内容の現代化や生徒一人ひとりの多様な進路希望への対応は、大きな課題として立ち上がります。さらに、ご自身のキャリアパスについても、管理職への昇進や異動といった選択肢がある一方で、漠然とした不透明さを感じていらっしゃるかもしれません。
このような状況において、外部の研修や情報収集に時間を割くことは容易ではありません。しかし、実はご自身の内側にある、これまで培ってきた経験や知識、そして何よりも「好き」や「得意」といった個人的な側面が、これらの課題解決に役立つ強力な「リソース」となり得ます。自身の「好き」や「得意」を意識的に教育活動に取り入れることは、生徒の学びを深め、多様なキャリア形成を支援することに繋がり、そして教員自身のやりがいやキャリアを考える上での新たな視点を提供してくれる可能性があります。
この記事では、多忙な日常の中でも自身の「好き」や「得意」を再発見し、それをどのように授業や生徒のキャリア支援に活かせるのか、具体的なヒントを探ります。
自身の「好き」「得意」をどのように再発見するか
まず、ご自身の「好き」や「得意」を意識的に見つめ直す時間を少しだけ持ってみることが大切です。多忙の中で立ち止まることは難しいかもしれませんが、以下のような視点から考えてみてください。
- 過去の経験を振り返る: 教員になる前の経験、大学時代の専攻、これまでの教員生活で特にやりがいを感じたこと、成功体験、あるいは苦労した経験から学んだこと。
- 授業外の活動や趣味: 仕事から離れた時間で熱中していること、長く続けている趣味、関心を持っている分野。これらは、ご自身の純粋な興味や隠れた得意分野を示唆していることがあります。
- 専門外の知識やスキル: ご自身の教科専門ではないけれど詳しいこと、独学で学んだこと、人から褒められたこと。
- 同僚や生徒との対話からの気づき: 同僚や生徒から「〇〇先生って詳しそうですね」「〇〇について教えてもらえませんか」と言われたことはありませんか。他者からの視点が、ご自身の強みを浮き彫りにすることがあります。
これらの振り返りは、特別な時間でなくても、通勤時間や休憩時間など、日々の隙間時間を利用して行うことができます。メモを取る習慣をつけることも有効です。
「好き」「得意」を授業で実践するヒント
ご自身の「好き」や「得意」を授業に取り入れることで、授業に深みとオリジナリティが生まれます。生徒にとっても、先生の人間的な側面や多様な知識に触れる機会となり、学びへの興味を引き出すことにつながります。
- 教科内容と結びつける: 例えば、歴史が好きなら、教科書には載っていないが授業内容に関連するエピソードを紹介する。科学が得意なら、身近な現象と科学原理を結びつける実験や演示を工夫する。美術が好きなら、教科書で扱わない時代の作品や現代アートについて補足説明を加えるなど、様々なアプローチが考えられます。
- 探究学習や総合的な学習の時間に活かす: 生徒が取り組む探究テーマに対して、ご自身の「好き」や「得意」に関連する分野であれば、より具体的な情報提供やアドバイスが可能になります。自身の経験に基づいた助言は、生徒にとって大変貴重なものとなるでしょう。
- キャリア教育の一環として語る: ご自身の「好き」や「得意」が、現在の教員という仕事にどのように活かされているのか、あるいは教員になるまでの道のりでどのように影響したのかを生徒に話してみることも有効です。先生が自身の興味関心を大切にしている姿を見せることで、生徒も自身の「好き」や「得意」について肯定的に捉えるきっかけになります。
生徒の多様なキャリア支援への活用
生徒一人ひとりが自身の興味や適性を見つけ、多様な進路を選択できるよう支援することは、中学校教育の重要な役割です。教員自身の「好き」や「得意」は、このキャリア支援においても大きな力となります。
- 生徒の「好き」「得意」を引き出す対話: ご自身の経験から、「好き」や「得意」がどのように見つかるのか、どのように変化していくのかといった視点を持つことで、生徒との対話の中で彼らの興味関心を丁寧に聞き出すことができます。「どんなことに興味があるの」「どんなことをしている時が楽しい」といった問いかけは、生徒自身が自分について深く考えるきっかけとなります。
- 多様なロールモデルを示す: 教員自身の「好き」や「得意」を仕事に活かしている姿は、生徒にとって身近なロールモデルとなり得ます。例えば、音楽好きな先生が授業で作曲のプロセスに触れたり、ものづくりが得意な先生が技術の授業で工夫を凝らした教材を使ったりする姿は、「好き」を将来に繋げることの可能性を示します。
- 情報提供と視野の拡大: ご自身の「好き」や「得意」に関連する分野で得た知識や人脈は、生徒への具体的な情報提供に繋がる場合があります。例えば、特定の技術分野に詳しければ、関連する職業や進路についてより具体的に説明できます。また、教育現場の外の世界に触れているご自身の経験は、生徒が持つ職業やキャリアに関する固定観念を打破し、視野を広げる手助けとなるでしょう。
教員自身のキャリアパスへの影響
自身の「好き」や「得意」を教育活動に意識的に取り入れることは、生徒や授業のためだけでなく、教員ご自身のキャリア形成においても大きな意味を持ちます。
「好き」や「得意」を活かした実践は、仕事へのモチベーションを高め、より深いやりがいを感じさせてくれます。これは、多忙な日々の中で教員という仕事を持続していくための大切なエネルギー源となります。
また、「好き」や「得意」を深めることは、教員としての専門性を新たな側面から磨くことにも繋がります。例えば、特定の分野に関する深い知識や、新しい授業手法の開発能力など、ご自身のユニークな強みとして確立されていく可能性があります。これは、学校内での役割拡大や、将来的な教育に関する様々なキャリアパスを考える上での重要な要素となり得るでしょう。教育委員会主催の研修や、外部のセミナー、オンライン学習などを活用して、ご自身の「好き」や「得意」に関連する知識やスキルをさらに深めていくことも、キャリアを豊かにする有効な手段です。
まとめ
中学校の先生方が抱える様々な課題は、外部の知識や情報だけで解決できるものではありません。ご自身の内側にある「好き」や「得意」といったリソースを意識的に見つめ直し、それを教育活動に活かすことで、授業はより魅力的になり、生徒へのキャリア支援は個別最適化され、そしてご自身の教員としてのキャリアも豊かなものへと繋がっていきます。
多忙な中で、全てを一度に変えることは難しいでしょう。まずは、ご自身の「好き」や「得意」を一つ見つけ、それを明日の授業や生徒との対話の中で少しだけ意識してみることから始めてみてはいかがでしょうか。小さな一歩が、生徒の未来、そしてご自身の未来を拓く大きな力となるはずです。