キャリアインタビューを通して生徒の未来を考える 中学校での授業実践とその意義
生徒の将来に対する希望が多様化する現代において、学校におけるキャリア教育の重要性は増しています。しかし、生徒が具体的な将来像を描くことは容易ではありません。従来の職業調べや進路ガイダンスに加え、生徒が「働く」ことや多様な「生き方」に直接触れる機会を提供することが求められています。その有効な手段の一つとして、キャリアインタビューが挙げられます。
キャリアインタビューがもたらす学びの意義
キャリアインタビューとは、生徒が社会で働く大人に直接話を聞く活動です。この活動を通して、生徒は単に職業名を知るだけでなく、働くことの現実、仕事のやりがいや大変さ、その仕事に就くまでの経緯、そして働く個人の価値観や人生観に触れることができます。
中学校段階でキャリアインタビューを取り入れることには、以下のような教育的意義があります。
- 多様なキャリア観・価値観との出会い: テレビやインターネットの情報だけでは得られない、生きた情報に触れることで、社会には多様な働き方や価値観があることを実感できます。これにより、固定観念にとらわれず、自身の可能性を広げて考えるきっかけとなります。
- コミュニケーション能力の向上: インタビューのアポイントメント取得から、質問内容の検討、実際の対話、そして感謝の気持ちを伝えるまでの一連のプロセスは、実践的なコミュニケーション能力を育みます。相手に失礼なく、分かりやすく伝える力を養うことができます。
- 自己理解の深化: 他者の働き方や価値観を知る過程で、「自分は何に興味があるのか」「どのような働き方に魅力を感じるのか」といった自己の内面に目を向ける機会が生まれます。インタビューで得た情報を自分自身に引き寄せて考えることで、自己理解が深まります。
- 主体性と問題解決能力の育成: インタビュー対象者の選定、質問項目の作成、インタビュー実施方法の検討など、生徒自身が主体的に考え、計画し、実行する過程で、問題解決能力や計画性が養われます。
- 学習への動機付け: インタビューを通して、将来の目標や興味が明確になることで、現在の学習が将来どのように役立つのかを実感し、学習意欲を高めることにつながります。
中学校におけるキャリアインタビュー実践のステップ
多忙な学校現場でも取り組みやすいよう、無理のない範囲で実践するための基本的なステップを以下に示します。
- 目的とゴールの設定: なぜキャリアインタビューを行うのか、生徒にどのような学びを得てほしいのか、具体的なゴールを設定します。例えば、「多様な働き方を知る」「仕事のやりがいや苦労を知る」「働く大人から人生のヒントを得る」など、学年の発達段階や学校の教育目標に合わせて明確にします。
- インタビュー対象者の選定と依頼: 生徒の興味関心や設定した目的に合った対象者を選びます。地域で働く様々な職業の方、保護者、学校の卒業生、NPO関係者など、多様なバックグラウンドを持つ方々が候補となります。学校から依頼する場合も、生徒が自分でアポイントメントを取る場合もあります。生徒が主体的に選ぶことで、学びはより深まります。
- 事前学習と準備:
- インタビューの目的やマナーについて指導します。
- インタビュー対象者の職業や活動内容について事前に調べ学習を行います。
- 「どのようなことを聞きたいか」を生徒自身に考えさせ、質問項目を作成します。単なる知識だけでなく、経験談や価値観に焦点を当てるよう促します。
- インタビュー時の服装や言葉遣い、時間を守ることなどの基本的なマナーを確認します。
- インタビュー実施:
- 個人または少人数のグループで実施します。
- オンラインツール(Zoomなど)を活用すれば、遠方の方や多忙な方にも協力いただきやすくなります。
- インタビュー内容を記録(メモ、録音※許可を得て)します。
- インタビュー後には、必ず感謝の気持ちを丁寧に伝えます。
- 事後学習とまとめ:
- インタビューで得た情報をクラス内で共有します(発表、ポスター、レポートなど)。
- インタビューを通して考えたこと、感じたこと、自身の将来への影響などを振り返るワークシートや文章を作成させます。
- 多様なインタビュー結果を比較検討し、共通点や相違点を見出す活動を取り入れることで、学びを深めることができます。
- インタビューに協力してくださった方へのお礼状を作成します。
多忙な中でも実践するための工夫と教員のキャリアへの示唆
キャリアインタビューは準備や調整に時間を要することもありますが、工夫次第で多忙な中でも効果的に実施することが可能です。
- 地域人材や保護者との連携: 地域のキャリア教育コーディネーターやPTAの協力を得ることで、インタビュー対象者の選定や依頼の負担を軽減できます。
- ICTツールの活用: オンラインインタビューや、生徒が作成した質問項目やレポートの共有にクラウドツールを活用することで、効率的な準備や振り返りが可能になります。
- 他教科との連携: 国語科でのインタビュー技法の指導、社会科での職業や産業に関する学習、総合的な学習の時間や特別活動での位置づけなど、他教科と連携することで、より深い学びと教員の負担分散につながります。
- 学校行事との連動: 授業時間内だけでなく、文化祭や進路学習会などの行事の一環として位置づけることも考えられます。
- 教員のキャリアへの示唆: この活動を通して、教員自身も多様な社会人と関わる機会を得られます。地域とのネットワーク構築、生徒の多様な興味関心への理解、そして自身の授業設計やキャリア支援の引き出しを増やすことにつながります。また、生徒の主体的な学びをサポートするファシリテーターとしてのスキルも磨かれます。キャリアパスを考える上で、地域との連携強化や生徒の多様な進路に対応できる専門性は、自身の可能性を広げる重要な要素となり得ます。
まとめ
キャリアインタビューは、生徒が社会や多様な働き方に直接触れ、自身の未来を具体的に考えるための有効な手法です。計画的な準備と地域の協力、ICTの活用などを組み合わせることで、多忙な中学校現場においても実践の可能性は広がります。この活動が生徒一人ひとりのキャリア自律を促すだけでなく、教員自身の視野を広げ、未来に向けたキャリアを考える上での示唆となることを期待いたします。